日本曹達、青化ソーダ撤退 三菱ケミカルはAN生産撤退か、旭化成は国内供給を継続か

市場分析

はじめに

日本曹達株式会社(以下、日本曹達)は、青化ソーダおよび青化カリの生産を行っている水島工場(岡山県倉敷市)を2025年度に閉鎖することを発表した。報道によると、その背景は、原料である青酸ガスの供給先からの安定調達の目処が立たなくなったことらしい。青酸ガスの供給元はアクリロニトリル(以下、AN)を生産している三菱ケミカル株式会社(以下、三菱ケミカル)あるいは、同じくANを生産している旭化成株式会社(以下、旭化成)とみられる。(ANの副生で青酸ガスが発生する。)三菱ケミカルが国内でのAN生産から撤退する可能性が浮上するなか、もう一方の旭化成は国内AN供給を継続する方針を示しており、業界再編の兆しが見えている。つまり、三菱ケミカルの国内AN生産撤退がこのニュースの起点になっているのかもしれない。


日本曹達の撤退理由

日本曹達の水島工場は、青化ソーダおよび青化カリの国内主要な生産拠点の一つであり、長年にわたって安定した供給を行ってきた。しかし、近隣のANを生産する企業である三菱ケミカル社あるいは旭化成から供給されていた青酸ガスの調達が不安定となり、生産継続が困難になった。青酸ガスの供給元企業の化学製品市場の低迷が影響し、副生される青酸ガスの減産が見込まれたことが主な要因である。

青化ソーダは金属採掘やめっき、医薬品製造に広く利用される重要な化学品であり、その供給の減少は産業全体に波及する可能性がある。特に、日本国内での生産量が減少することで、海外からの輸入依存が高まることが懸念される。輸入による価格変動や物流コストの上昇も、国内需要家にとっては大きな影響を与えることになる。

また、日本曹達の撤退は、他の化学メーカーにとっても供給体制の見直しを迫る要因となる。これまで国内供給に頼っていた企業は、新たな調達先の確保が急務となるだろう。


三菱ケミカルのAN生産撤退の可能性

三菱ケミカルの国内AN撤退後の計画

三菱ケミカルは国内でのAN生産から撤退するものの、化学事業の再編と高付加価値製品へのシフトを進める計画を発表している。特に、脱炭素社会に向けた取り組みとして、バイオ由来化学品リサイクル技術の強化を掲げている。

また、ANを用いた製品群では、高機能ポリマーエレクトロニクス材料への注力を進める見込みだ。たとえば、三菱ケミカルはANを原料とするABS樹脂やアクリル繊維の需要が成長する分野において、原料の外部調達を行いながら、高機能製品の開発と市場拡大を図る戦略をとっている。

さらに、海外市場での事業展開の強化も視野に入れている。欧州や北米の大手化学メーカーとの協業を進め、サステナブルな製品開発に取り組むことで、脱炭素経済に適応しつつ、競争力を維持する狙いがある。AN撤退後は、こうした成長戦略にシフトし、持続可能な事業ポートフォリオの確立を目指している。

収益性の問題

三菱ケミカルは、広島事業所においてACH法によるメチルメタクリレート(MMA)モノマーおよびANの生産を行っていたが、2024年7月をもって生産を終了すると発表した(出典: 三菱ケミカル公式発表)。この決定は、AN事業の収益性の低下が背景にある。ANの原料となるプロピレンやアンモニアの価格変動が激しく、原価管理が難しい。また、中国や韓国の低コスト競争により、日本国内のAN価格が圧迫され、事業採算が合わなくなってきた。

競争環境

世界市場では、中国メーカーがANの大量生産を進め、価格競争力を高めている。韓国のメーカーもコスト優位性を生かし、日本市場へ積極的に輸出している。三菱ケミカルはこの厳しい競争環境の中で事業継続が困難になったと考えられる(出典: 化学工業日報)。

今後の国内AN市場への影響

三菱ケミカルがAN生産を撤退した場合、国内AN市場の供給が大幅に減少する。これにより、国内市場の価格上昇や供給不安が生じる可能性がある。国内のAN需要家は新たな調達ルートを模索することになり、輸入品への依存度がさらに高まると予想される。

旭化成の国内AN生産継続

旭化成のAN事業の強み

旭化成は、水島製造所をANの生産拠点として運営しており、日本国内でのAN供給を支えている。旭化成のAN事業は、自社のABS樹脂やアクリル繊維、アクリルラテックスなどの生産とも密接に関連しており、事業全体のシナジーを生み出している(出典: 旭化成公式発表)。

旭化成の強さの背景と海外事例

旭化成がAN市場で優位性を維持できる背景には、いくつかの要因がある。第一に、旭化成は長年にわたり独自の触媒技術やプロセス最適化を進めており、これにより生産効率が向上している。たとえば、米国のINEOS Nitrilesは、世界最大級のAN生産能力を持ち、エネルギー効率を高める触媒技術の導入で競争力を維持している。旭化成も同様に、低コストかつ環境負荷の少ないプロセス開発を進めており、これが競争優位の一因となっている。

また、韓国のLG Chemや中国のSinopecなどの大手企業がAN市場で積極的な拡張を進めている一方で、旭化成は国内市場に特化し、安定供給を武器に差別化を図っている。特に、米国や欧州のメーカーが不安定な原料供給や環境規制の強化による生産コストの上昇に直面している中で、旭化成は既存の国内設備を最大限活用し、柔軟な生産体制を維持している。

さらに、グローバル市場では、アクリロニトリルの需要がEV(電気自動車)や半導体産業向けの高機能樹脂において増加傾向にある。北米のAscend Performance MaterialsはANをナイロン樹脂の原料として活用することで高付加価値化を進めているが、旭化成も類似の戦略をとり、国内外の需要を見据えた供給網を構築している。

このように、旭化成のANの強さは、国内の安定供給だけでなく、海外の競争環境を見据えた技術革新と市場戦略に支えられている。

まとめ

三菱ケミカルの国内AN撤退の決断が、今回の業界再編の大きな引き金となっている。これにより、日本曹達は青化ソーダの生産を継続することが難しくなり、水島工場の閉鎖を決定した。一方で、旭化成は国内唯一のAN供給メーカーとしての地位を確立し、市場の安定供給を担う役割がより強まっている。

この変化は、国内の化学業界全体に大きな影響を与えている。ANの供給が減少することで、需要家は新たな調達先の確保を迫られ、価格上昇や供給リスクの増加に対応する必要がある。また、青化ソーダ市場においても、輸入依存度の増加によるコスト上昇や供給の不安定化が懸念される。

今後、企業はグローバルな供給網の確保と価格変動への対応を強化し、安定した事業運営を目指す必要がある。特に営業や営業企画の担当者は、国内外の市場動向を注視しながら、柔軟な調達戦略を立案することが求められる。

以上のことからAN再編を目指す三菱ケミカルの国内AN撤退の決断が今回の記事の起点をなっている。


情報源(参考文献、企業発表資料)

  • 三菱ケミカル「広島事業所における生産終了の発表」
  • 旭化成「AN生産継続に関する公式声明」
  • 日本曹達「水島工場の閉鎖に関する公式発表」
  • 化学工業日報「AN市場の動向と競争環境」
  • 日経新聞「青化ソーダ市場の変遷と影響」

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